借金返済が迫っている
借金返済に困っていた僕は今、コンビニエンスストアのアルバイト面接に行く準備として、まずは学校の先生の許可を取るということで、進路指導室にいたりする。どうしてバイトがしたいのか、と言う問いを先生に出された僕は、先の週末のことを思い出していた。そう借金返済の事実をだ。「今日、こうして家族会議を開いたのは、重大発表があるからだ」日曜の午前9時。時間差を置いてのそのそとベッドから這い出てきた僕ら兄弟を前に、我が父がそう言った。何やら重大とのことなので、とりあえず朝食のパンを焼くのは後回しにする。朝御飯のトーストとは言え、シリアスな会話の最中にチンッ♪ と鳴るのは頂けない。仕方なく、僕ら兄弟はコーヒーだけをすすって、父の次の言葉を待った。「実は父さん、無職なんだ。数ヶ月ほど前から」僕ら兄弟は一斉に鼻からコーヒーを吹き出しましたよ。ええ、それはもう、タイミングバッチリで。確かに重大だった。衝撃の告白だった。そりゃ、コーヒーだって出ますよ、鼻から。と言うか、疑問も出ます。無職で無収入であるのならば、このコーヒー代を含む生活費は、一体何処から捻出されていると言うのか?
借金があるのか?返済は大丈夫なのか?悪い予感がします。ビシビシします。嫌な単語が頭に浮かびます。具体的には、借金とか借金返済とか取立てとか。だからか、僕ら兄弟は鼻からコーヒーを垂れ流したまま、次の言葉を待った。身動きが取れなかった。そのはずなのに、微妙に震えていたりもした。カタカタカタカタと。「えーっとな?それで実は我が家にはかなりの借金があったりします」我が父からの、衝撃の告白第2弾だった。まぁ、借金と言う単語はすでに予想してはいたけれど。
でも、実際に借金と言う言葉が父の口によって発せられると、やっぱり厳しいものがあった。「言い出せなくてすまん。悩んで、悩んで、悩み過ぎて、そしてつい借金してたことを忘れていた」いや、そこは忘れるなよ。と言うか、何故忘れる? 僕ら兄弟の意思は、多分その思いで一つになった。だって、借金だよ? しかも、かなりの額の。「いや、考えても仕方ないだろう? だって、不景気なんだし。借金返済の目処も立たないし」不景気の一言で、終わらせていいものなのだろうか?と言うか今、さらりと『借金返済の目処は立たない』とか、言わなかった? ホント洒落にならないよ、それ。僕らは子供だから、社会を詳しく知らないけれど……それでもこの父よりは、マシなのでは? いや、絶対そうだ。僕らはそんな思いからか、視線で会話しあう。駄目だ。我が父ながら、この人は駄目過ぎる……と。
「金ぇはらわんのなら、バラすぞコラと、電話がかかってきた。昨日のことだ。いやぁ、父さん借金返済の催促を、これまでフツーに無視してたからな。すっごく怒ってたぞ。はっはっは」少なくとも銀行の人なら、借金返済の催促でも、もっと丁寧な口調で喋るはずだ。バラすぞなんて、絶対言わない。どうやら我が父が借金をした先は、返済出来なければ内臓とか眼球を売りに出させる類らしい。しかも、そんな類の人が怒り心頭。早く借金返済しないと、これはかなり不味いんじゃないだろうか?「でもまぁ、大丈夫だ。もうすぐ電話も止められるしな。もう電話に出れん。借金返済の催促すら、もう向こうは出来ん」
何がどう、大丈夫なのだろう? あぁ、僕ら兄弟がよく「年の割にしっかりしてますね」と言われるのは、やっぱりこの人の元で育ったからだろうか? 薄々感じていたけど、今日はもう実感したって感じだ。ついでに母が家を飛び出したもの、この人のペースについていけなかったからだろう。僕らを置いて行った事には色々思うことがあるけど……この父についていけないって気持ちは共感出来る。もしここにいれば、母はどう言っただろう? 今後の借金返済について、どんな考えを持っただろう?と、僕は少々現実逃避をしてしまった。反省。逃避していては、目の前の父と同レベルだ。
借金返済を求めて、ヤバイ筋の方々が怒っているらしい。でも、父はへらへらとしてるだけで、役に立ちそうもない。ここは僕らが……特に長兄の僕が、しっかりしなければ。僕はそう決意し、気を取り直した。「と言う理由です。とりあえず借金返済に関しては、自分に出来ることからやろうってことで」「あぁ、分かった。バイトの許可はすぐ出してやる。先生にはそのくらいしか出来ん」許可だけじゃなくて、例えば人身売買の怪しい人が襲ってきたら、身を挺して助けてくれるとか、いっそ僕に同情しまくって、借金返済を肩代わりしてくれたりとか、そんな感じのストーリー展開には……」「こことここな。ちゃんと記入しろよ。ボールペンでな」「あれ? 軽く無視ですか?特に借金返済のくだりの辺り」「もちろんだ。家庭問題……しかも、金銭問題と言うか、借金返済問題なんぞは、 外から応援することしか出来んのが教師だ。と言うか、返済はきちんとしろよな。 先生たちも生徒の諸々の未納問題には頭を抱えているから、他人事でもないと言えば、ないような……?まぁ、とにかく頑張れ。負けるな。力の限り、生き続けるんだ」進路指導の先生は、僕の肩にぽんっと手を置いてそう励ましてくれた。言葉の引用先がコント番組の決め台詞だったことは……まぁ、気にはなったが言及はしなかった。そんなこんなで、僕の借金返済の日々が始まった。僕の? いえ、正しくは僕ら一家の借金返済ですね。父さん、とりあえず定職についてください。お願いですから。それが借金返済の第一歩です。何とかなるなるの一言で、済ませようとしないで下さい。何とかならなかったから、こうなってるんですよ、まったく……。借金返済を終えるまでの道のりは、長い。